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MAGAZINE
STYLE OF MASHIRO

料理家/食育インストラクター和田 明日香
ASKA WADA
PART.1

作る人の心に寄り添うようなレシピを生み出し続ける料理家、和田明日香。平野レミの次男と結婚し、料理経験ゼロの専業主婦から料理家へと転身した。大きな変化を経験してきた彼女は、この「変化の時代」に何を感じ、どんなふうに語るのか。

楽しんでる声って届きにくいんですよね。
本当は日々、いろんなところでいいことが起きてるはずなのに。

MASHIRO、どうですか?

私、この色すごく好きで。今日の服もそうですけど、つい選んじゃう色なんです。
洗面所に出してても生活感がない、かっこいいビジュアルだと思います。それから、粉が溝に出てきて便利。蓋に出したりしないでよくて、これで完結させてくれるのはすごくいい。

なるほど。歯磨きもそうですが、毎朝のルーティンはありますか?

朝起きて、まず目薬をさして。それから、時間があればフォームローラーという、ストレッチのボールみたいなものの上に寝そべって、眠っている間に凝り固まった背中をほぐします。いつも大体、夫が先に起きて、子どもたちのお弁当を作っています。私は自分用にコーヒーを入れて、朝ごはんを作って、子どもたちを起こして食べさせて……その間に顔を洗ったり、着替えたり……みんなを送り出すまではバタバタ。体温を測って学校に連絡しなきゃいけなかったりとか、出発直前になって「体操着がない!」騒ぎとか。さばいて、さばいて、さばいて、「はい、行っといで!」。それからコーヒー。そのタイミングでコーヒー淹れればいいんですけどね。なんか作りたくって、起きてすぐに淹れちゃう。平日は、朝8時までは鬼の形相ですよ。

鬼の形相、意外です。……ところで、最近「おいしい」と思ったものってありますか?

なんだろうなあ。毎日、何かしら「おいしい」と思ってるはずなんですけどね。
やっぱり一番「おいしいな」って思える瞬間は、食べたかったものを、理想の環境で食べられるとき。
たとえば、ごちゃごちゃした町の中華屋さんの野菜炒めが食べたいときに、それを家で食べたら「あ、違う」って思うかもしれない。自分は今日、そういう雰囲気だ! っていうのがあるんです。どんなにおいしくても今日はこうじゃない、とか。食べたいものや味とセットで、環境もイメージする。「今日は海を眺めがら優雅にオムレツを食べたい」みたいな。おいしさって、味だけじゃないと思いますね。

誰と食べるか、も重要?

そうですね。でも、本当に食べたいものを食べに行くときは一人で行くかもしれないです。誰の意見にも邪魔されたくないし、その状況を堪能したいので。ランチは一人で行ったりもしてます。夜は家族と家で食べるんですけど、食べたいものをすり合わせなきゃいけないじゃないですか。もちろん、そのおかげで誰かとおしゃべりできて、楽しくて好きなんですけど。今日はこれが食べたいっていうものがあれば、一人で行きます。食べることが好きなんだと思います。食べるなら妥協せずに、その時間を楽しみたい。

家族のごはんを作るときは、どうやってメニューを決めているんですか?

自分と家族に作るものは、もう、その日に自分が食べたいものじゃないと作らないです。一応、家族に「何食べたい?」って聞くんですけど、気分じゃなかったら全然対応しない(笑)。家族もみんな「どうせ自分で決めるんでしょ」みたいな感じで「なんでもいいよ」って言うんですけど、ヒントは欲しいんですよね。麺類がいいのか、あったかいものなのか、肉なのか魚なのか。

でも、どういう味付けにするかは、私が食べたい味で決めます。そうしないと、おいしいものって作れないと思ってて。人に言われて「はい、わかりました、じゃあ肉じゃが作ります」とか、作れるけど、作ってる最中に味見とかして「まぁこんなもんだろう」って感じになっちゃうんですよ。無理してみんなが食べたいものに合わせて作るよりは、「はい、ママは今日、これとこれとこれが食べたかったし、めちゃくちゃおいしくできました」って出す。
作った人がおいしそうに食べてるのが、一番そそられるじゃないですか。自信がなさそうに出されるよりも、シェフとかでも「これが私のスペシャリテ」って出された方が、ちょっと口に合わなくても「そうなんだろうなあ」と思わされる。
子どもにも、なかなか食べないものを食べさせようと色々頑張るのもいいんですけど、まず自分がめちゃくちゃおいしそうに食べる姿を見せる。そうすると、すぐには食べなくても「うちの親が食べてたなー」っていう記憶が残って、いつか食べたりする。みんなが食べてると、つられて食べちゃうっていうか。おいしそうに食べてる姿を見せるってのが一番効果的かなって思います。

この一年ぐらいで、料理をすることの意味って変わったと思いますか?

自分の家でごはんを作る人が増えたので、変わったと思いますね。レミパンも売れてるんですよ。
でも、「やってみたから楽しかった」って人ばっかりじゃなくって、「やっぱ料理つれえな」って人も、増えてるはずで。そういう人に、本当に簡単な楽しい料理が届いたらいいなって思います。楽しんでる声って届きにくいんですよね。苦痛の方が大きく響いちゃう。ニュースでもなんでも不安を煽るようなものばっかりがもてはやされて。幸せなニュースってあんまりね。たまにあると「すごいいい話聞いた!」みたいな気持ちになるけど、本当は日々、いろんなとこでいいことが起きてるはずなのに。

でも、「料理を始めてはみたはいいものの、うまくいってない」とか「どう作ったらいいかわからない」人の気持ち、すごいわかるんですよ。私も11年前に全く同じだったので。結婚するまでは本当に、「料理はもう、料理が好きな人にやっていただいて、私はお金を支払います。それをおいしく食べさせてください」と思ってた。
だから、いざやり始める時の「何したらいいかわからない感」が痛いほどわかるんです。新しく出したレシピ本では、そういう人に寄り添えるような言葉を慎重に選んだりとか、レシピを選んだりとかしていて。

和田さんのレシピは、初心者の心を折らないですよね。

そうなんですよ、料理を始めたての頃の私がもう、ボキボキ折れたので。「ひたひたの水」って何だ? って、 Google 検索で画像を調べたり。レシピを読んでいると当たり前に「拍子切り」とか書いてあるじゃないですか。写真を見ればなんとなく「拍子切り」の形はわかるけど、「人参をどうしてこうしたらこの形になるのか?」というところからの始まりだった。だから私は、「拍子切り」じゃなくて「縦5センチ、薄さ2ミリぐらいで、なんとなく切れてればいいです」って書く。
料理が苦手なことって、罪悪感を抱かせがちなんですよね。運動が苦手な人もいれば料理が苦手な人もいていいって思うんですけど。そういう、プレッシャーを感じている人たちに届いたら、「レシピ本を出した」っていうこと以上に、なにか意味があったかなあと思います。

PROFILE

料理家/食育インストラクター和田 明日香 Aska Wada

料理家で食育インストラクター。東京都出身。3児の母。料理愛好家・平野レミの次男と結婚後、修行を重ね、食育インストラクターの資格を取得。各メディアでのオリジナルレシピ紹介、企業へのレシピ提供など、料理家としての活動のほか、各地での講演会、コラム執筆、ラジオ、CM、ドラマ出演など、幅広く活動する。2018年、ベストマザー賞を受賞。著書に『子どもは相棒 悩まない子育て』(ぴあ)。『和田明日香のほったらかしレシピ・献立編』(タツミムック)他。新刊『10年かかって 地味ごはん。』(主婦の友社)」も好評発売中。テレビ朝日「家事ヤロウ!!!」に出演中