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MAGAZINE
STYLE OF MASHIRO

映画監督山中 瑶子
YOKO YAMANAKA
PART.1

初監督作品『あみこ』がPFFアワードに入選。ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待される。気鋭の監督として国内外から注目を集める彼女は、日々の暮らしのなかでなにを感じ、どんなことを大切にしているのだろうか? 創作への想いや10代の思い出、今後の展望などを語ってもらったインタビュー。

できれば地面に近づきたいですね。
下でちょこまか動くような考え方が足りていないんです。

MASHIROを使ってみて、どうでしたか?

粉の歯磨き粉を初めて使いました。歯磨き「粉」って、言われてみればたしかに粉だなあと、MASHIROを使うなかで気付いたんですよね。実際に使ってみたら、粉だから使いにくいという感じはなかったです。何度か使ううちに、自分にとって最適な量を出すための振り方が分かってきました。そういう試行錯誤できる感じが楽しいです。

歯磨きで気をつけていることは?

もともと、歯磨きをする時間は長いほうで、10分か15分ぐらい磨くのですが、最近はより丁寧に磨くようになったかもしれません。フロスも使います。歯に気をつけるようになったエピソードで「人間の寿命が延びた」というものがあって。昔の人は30年程度しか生きなかったから、子供の頃に歯が生えかわるぐらいで耐久寿命としてはちょうどよかった。でもいまは長寿になっているから、普通だったら耐えられない年数、同じ歯を使い続けている、と。それを聞いて、歯を大切にしなきゃなって思ったんです。

山中さんのライフスタイルについて教えてください

構想を練ったり脚本を書いたりしている準備期間と、撮影が始まっていざ現場に向かう日々とで、ライフスタイルはだいぶ変わってきます。撮影期間中は、朝5時に起きることも多くて、夜は1時に寝付けたらいいほうだったりします。夜メインの撮影になってくると、夕方から朝までのスケジュールになるので、夜型に切り替えないといけないのですが、うまくいかずに一切寝れないこともあります。

かなりハードですね

あまり健康的とはいえないですね(笑)。しかも、撮影中はアドレナリンが出ているのでぐっすり眠れないし、食欲がなぜか湧かずご飯もあまり食べられない。1週間ぐらいなら持ちますが、それより長いとガタがくる。特に、アップした後が大変です。交感神経が優位に働いていた撮影期間から、今度は副交感神経が優位になって、絶対体調を崩すんです。とはいえ、みんなこれをやっているはずなので、そろそろ慣れたいんですけど……。なかなか慣れないですね。

脚本を書いているときは、どんなライフスタイルなんですか?

すごく家にこもる時期です。準備が一番大事なので、しっかり進める必要があるのですが、ひとりでずっと書いていると気持ちが内向的になってきます。そういう状態から撮影が始まると環境がガラッと変わるので、「人と一緒に作っているんだな」ということを思い出すんです。

自分の内側に潜るような時間なんですね

そうですね。わたしの場合は「奥深い場所」で作業をしていると、外との繋がりみたいなものがなくなってきちゃって。その状態の自分が脚本を書いて、そのまま映画にしようとすると、すごく個人的なものになってしまう。外に開いていかない。だから深く潜る前に一回、いろんな人と、とにかく話すという期間を作っています。外に出向いて、出歩いて、いろんな人の話を聞いたり、会話をしたりする。そうすることで、自分が考えていることの輪郭がはっきりしてきます。

その後で潜る、と

はい、その後で潜るんですけど……「上がる」タイミングを通り過ぎると、そういう、みんなで一緒に話したり考えたりしたことも忘れちゃう。自分だけが頼り、みたいな状況になるんです。「そうなりそうだな」って思ったタイミングで、書いている脚本を、タイプの違う5人に送ります。絶対に褒めてくれる人と、褒めなさそうな人と……みたいな。冷水を浴びせてもらうような気持ちで。

書いているものの出口を探すのは、苦しい時間ですか?

たとえばいま、すごく思い悩んでいる企画や構想があるとして、そのためにすぐ使える手がかりを探そうと思って、急にいろんなものをインプットしても、全然ダメで。かつての自分がしたことや触れたものが急にふっと現れて助けに来てくれることがあります。過去の蓄積からでしか救われない。「いますぐこれをどうにかしないと」と焦っているうちは、即席の解決法みたいなものは訪れないなと思っています。なので、過去にサボったことで苦しむことは多々あります。

過去の蓄積からでしか救われない……

はい。そういう意味では、感情面でいろんなことをサボらずに感じたり考えたりしようと思っているんですけど……大人になると難しいところもあって。少しだけ違いがある二つのものがあらわれたとき、昔ならばそれらを「全く違うもの」として面白がれたんですが、最近はなんだか、一つに括ってしまう。俯瞰して見るようになったからかもしれません。一回ぱっと見て、こう、分かった気になるということに気をつけようと思っています。

もっと、俯瞰ではなく、地面に近い場所からものごとを見たい、と

できれば地面に近づきたいですね。そうしないと、取りこぼすことが多いんじゃないかと思っています。昔は何も考えずにできていた、下でちょこまか動くような考え方が今は足りていないんです。逆にいえば、昔はあまり広い視点を持てていなかったということでもありますが。なるべく常に、豊かなあらゆる視点を持っていたいです。

小さい頃は、どんな子供でしたか?

小学校に入るぐらいまでは、全然泣かないし笑わない、手のかからない子だったらしいです。その反動なのか、学校に通い出してからは大人の嫌がることを言ったりしていた気がします。「本質の話をしてほしい」みたいな。でも、学校の先生で、理解のある人だと「どうしたの」とか目線を合わせて、優しく聞いてくれるんですよね。そうするともう、どうしたらいいかわからなくなっちゃって、素直な気持ちが言えなくなる。

なるほど、難しそうです

本を読むのが好きだったのですが、本に出てくる世界と、目の前の世界とのギャップがありすぎて。それで、いろいろ質問していたんだと思います。子供の頃はまだ、学校と家しか世界がなくて、それでは息苦しすぎると感じて戦っていたのかなと。
特に、「考え方を決められる」ような場面で違和感を感じていました。なにか悪いことをすると、学級会で「ごめんなさい」「いいよ、もうしないでね」と言い合って握手をする。毎回、その型にはまったやりとりがあるんです。「いいよ」って言わなきゃいけないのも変だし、「ごめんなさい」という言葉だけで、なんで悪いことをしたのか、裏側にあった理由も全部なかったことにされる。誰のための、なんの時間なんだ? と感じていました。大人になって本当に良かったです。

PROFILE

映画監督山中 瑶子

日本大学芸術学部映画学科監督コースを中退。19歳から20歳にかけて制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017で観客賞を受賞。ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭、全州映画祭(韓国)、ファンタジア国際映画祭(カナダ)、JAPAN CUTS 2018(米・ニューヨーク)など海外映画祭に多数参加し、2018年9月1日にポレポレ東中野で劇場公開された。