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MAGAZINE
STYLE OF MASHIRO

映画監督山中 瑶子
YOKO YAMANAKA
PART.2

初監督作品『あみこ』がPFFアワードに入選。ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待される。気鋭の監督として国内外から注目を集める彼女は、日々の暮らしのなかでなにを感じ、どんなことを大切にしているのだろうか? 創作への想いや10代の思い出、今後の展望などを語ってもらったインタビュー。

自分を許せなくなるほど自分を曲げてはいけない。
いろんなことを選べる状態になって、関わり方を選びなおせるように。

「自分磨き」で気をつけていることはありますか?

体幹がしっかりしていないのと、姿勢が悪いことを、ずっとごまかしていて。体調とかにも影響することなのに、「なかったこと」にしちゃうんです。ストレッチとか、続かないんです。さっさと取り組んだらいいと思うんですけど、言い訳をする。生活面において、そういうことが多いですね。

言われてみると、体に関することを「目先の仕事」のために後回しにするのって、本当はおかしいのかもしれませんね

おかしいと思いますね。その「おかしさ」に、新型コロナウイルスが流行した後で気がついて。仕事をストップして、京都に引っ越したんです。東京にいたときは、生活がめちゃくちゃだったんですよ。映画をやるために生きているというか、そう思い込んでいた、というか。でも、撮影が延期になったり、いろんなことをストップしなきゃいけない状況になったりして、それが解けたんです。

思い込んでいたものが、解けた

はい。創作している人ってどこか「それをしないと生きてはいられない」みたいな気持ちを持っている人が多い気がします。それを周囲も「ああいうふうに生きるべきなんだ」と見做している。わたしもそんな価値観を内面化して、それが立派なことだと思い込んでいたんですけど、それが解けた2年間でした。ご飯の味がちゃんとする、とか、そういう本来当たり前のことができていなかったので、引っ越してから人間らしくなったなと思います。映画のことだけ考えていれば映画を作れるわけじゃないんだな、って思いました。

東京から京都へ、住む場所を変えたことも大きいんですね

環境を変えてから、そうですね。山の稜線を見たのは久しぶりでした。今住んでいる場所は、遠く離れた記憶や、遠い場所に住んでいる人、そういう存在について考えられるきっかけを与えてくれる街だと思います。東京に住んでいた頃よりも、遠くのものについて考えられるようになって。いまは、一人の人間でありたいという気持ちがクリアになりました。

映画を作り続けながら、一人の人間でありたい、と

制作環境とか、そういうことにも繋がってくると思うんですけど、「そこにいる自分は業界の慣習に合わせて、何も考えずにやっていけばいい」みたいなことを、期せずしてやってしまっていたのかもしれない、と思っています。目を背けてしまっていたけれど、そうでもいられないなと。東京の一極集中で映画の制作が行われているというのにも、なにか違和感があります。もうちょっと風通しのいい、いろんな環境を作っていかなければならないと考えています。盲目的に映画に生きる、みたいなことではなく。

環境に合わせるという意識から、環境を作るという意識に変わっていったんですね

そうですね。以前は、「うまくやっていくぞ、この世界で残っていくぞ」という気概があったんですけど、最近はそうではなくて、「自分を許せなくなるほど自分を曲げてはいけない」と思っています。
自分やほかの人たちが、なにかを我慢しながら創作するようなことではなくて……いろんなことを選べる状態になって、関わり方を選びなおせるように。そのために、「思っていないことは言わない」ことは最低限気をつけています。

山中さんが高校生の頃にホドロフスキーの作品を貸してくれた高校教師について教えてください

今思うと、なんだかすごく、思い詰めた人でした。たぶん芸術の世界で挫折したことも多かったのだと思うのですが、結果的に学校で美術を教えていて。人当たりも、柔らかいようで、どこか怖かった。でも、生徒たちを啓発しようという気持ちはすごく感じられて、自分が若い頃に触れて影響を受けた作品なんかを勧めてくれるんです。わたしのように、それに食いついた人には、その人の興味関心に合った作品をどんどんピックアップしてくれる。「子供相手にはこう接すればいい」みたいなことをしない人でした。

大人らしくない大人だったんですね

導いてあげる、みたいな感じはなかったですね。幸せじゃないことを隠そうともしない感じが、当時高校生だった自分には珍しかったです。生きづらそうだなと思いましたが、「こういう道もあるんだな」とも思いました。先生だからといって、自分を隠さなくてもいいんだ、と。その先生を通して、人間は一面的な存在ではない、ということを知ったと思います。

一人になりたいときは、どこにいくんですか?

東京に住んでいた頃は電車に乗っていました。山手線とか。移動手段としての電車は苦手なんですが、アイデアを出したり考え事をしたり、読書をするのには電車は最適です。適度にノイズがあった方が集中できますし、乗客の会話も面白い。脚本を書くとき、気を抜くとセリフが「全部自分」になっちゃうので、あまりよくないのですが、電車で乗り合わせた人々の喋りかたには自分にない語彙や癖があっていいですね。

会話を聞くために電車に乗ることもあるんですか?

本を読んでいて、それでも入ってくるものだけに意識を向けるようにしています。気になる言葉があったらメモをしています。改札前での会話とか、終電とかも面白いです。京都に来てからは喫茶店や鴨川ですね。とにかく不特定多数の人が集まる場所がいいです。
見返した時に「これ、なんだっけ」と思えたほうがいいというか、思い出せないようなものをメモしています。一度、意味を取り払ってあげたほうが、良いときに助けてもらえる気がします。

10年後は何をしていると思いますか?

やっぱり映画を撮り続けていたいですね。30代になったら楽になると言う女性は多いので、楽しみにしています。でも少しでも楽になるためには、20代のうちに向き合わなきゃいけないこともあるのかなと思っています。ないがしろにしてきたことに目を向けて、自分のケアもしていく。いまはやっと、自分がすごく未熟なんだなってことが分かってきたところなので、そういう未熟さと向き合っていきたいです。苦しくてもいいと思っています。自分が楽だと思っているときは、誰かが苦しんでいるような気がしちゃうんですよ。だからあまり、楽になりたいわけじゃない。体力をつけて、長編映画を撮りたいです。

PROFILE

映画監督山中 瑶子

日本大学芸術学部映画学科監督コースを中退。19歳から20歳にかけて制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017で観客賞を受賞。ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭、全州映画祭(韓国)、ファンタジア国際映画祭(カナダ)、JAPAN CUTS 2018(米・ニューヨーク)など海外映画祭に多数参加し、2018年9月1日にポレポレ東中野で劇場公開された。