ダイナミックな書道パフォーマンスをはじめ、さまざまなロゴや立体作品など、新しい表現を生み出し、多くの人々に大好きな書道の魅力を届けている。自身のことを「書道野郎」と語る彼女はいつも、どんな日々を過ごしているのだろうか?
そうですね。私は旅行も好きなので、海外や国内旅行に行くと世界遺産を見たり、その土地の特徴を感じたりして、表現を吸収します。頭の中の引き出しを増やす、という作業はよくしていますね。「あの色遣い」とか「こういう表現」とか、そういう引き出しを増やしておいて、作品をつくるときに「そういえばあのときの」って、思い出して開けたりする。
吸収したものがすぐに使えるわけではないので、とにかく引き出しを増やす。すぐにできたらいいんですけどね、なかなかできないんですよ。「今日はなんか作品書きたいから海に行こう」とか、インスピレーションを得て、すぐに帰ってきて書く、みたいなことができたらめっちゃいい。憧れます。
でも実際は、20回やってひとつできる、という感じですね。
テーマがあって、構成を練ってから書くこともあるし、急にシュッと降ってきて、「もう、今すぐ書きたい!!!!」ということもけっこうあります。個展で発表した『創造』という作品のときもそうでした。いきなり書きたくなって屏風を出してきて、下書きとかせずにとりあえず書き進める。どんどん書いていって頭の中のものをとりあえず出して、「あ、この形で、できた」と。
そうなんです、急に書きたくなるんですよね。PCをいじってたり、お稽古をしていたり、全然関係ないときに降ってくるので、「急いで、急いで、今すぐ書きたい、早く早く!」ってなります。だから基本、アトリエで過ごしています。友達と遊んでいるときに降ってきたときは「あっ、ちょっと待って」という感じですね。食事中でも「食べたら帰ろう、食べたら帰ろう……」みたいな。友だちも、もう慣れていて。大学のときから一緒で、今も同じお稽古に通っている仲間なので、「うんうん、いつものことだね」と受け入れてくれます。
友だちとは、いつも書道の話をしているんですよ。「あの作品こうやったな」とか、先生の真似して遊んだりとか。作品見せ合いっこして、先生の真似して批評するとか(笑)。
書道パフォーマンスをはじめたきっかけは、大学生のときなんです。私が入部したとき、書道部は部員が2人しかいなくて、「もう廃部になるかもしれない」というピンチで。でも転機が訪れて、書道部を立て直すために部長に就任したんです。部員数を増やすためにもとにかく目立とう! と、書道パフォーマンスの大会に出ようと決めたんです。右も左もわからないところからのスタートでした。1ヶ月後の大会のために、部員みんなで毎日、最終バスまで練習して、みんなにめっちゃ文句言われながら(笑)。でもその大会に出たことで一気にチャンスが増えました。最終的には部員が25名まで増えたんですよ。そんなふうに活動をしながら、大学の頃にメディアに出たり、お祭りでパフォーマンスをしたりといった活動を発信するようになっていきました。だから、書道パフォーマンスは私の根幹にあるものなんです。プロになってからも、子供たちがパフォーマンスを見て「僕も書道家になりたい」「私も書道をやってみたい」と言ってくれることが増えるので、そういう意味でも大切にしています。
そうですね。どうしても書道の作品って、「完成したもの」が出てくる。通常の「書道作品」であれば、書いている過程を見せることは、ほぼ、ないんです。それを書道パフォーマンスでは、ライブでどう魅せるか、エンタメとして発信できるか、というのはいつも大事にしています。
そうですね。ミュージシャンでたとえると、「ライブで歌う」ことと「CDを出す」ことの違いに近いかもしれません。もちろん、どちらもすごいことです。CDでは「完成されたもの」を出すことができる。ライブのほうは、空気感だったり会場との一体感だったり、魅せかた、ライティング、いろんな要素を組み合わせて表現ができる。曲そのものの完成度でいうとCDのほうが高いけれど、全体的な体験としてみたときに「やっぱりライブで見たい」と言ってくれる人もいる。そういう違いかな、と思います。
いろいろ、試行錯誤を重ねながら調整しています。墨が垂れないような筆使いや角度を探ったり。場数を踏めば踏むだけ上手になるので、いつも練習しています。曲に合わせて盛り上がりを入れたり、曲終わりでピタッと書き終わるようにしたり、そういう「魅せる」パフォーマンスであることも大事にしています。「すごい、感動した」と言ってもらえるように。
私が経験した中で一番大きなステージでは、「この文字は1分13秒。ここを15秒で歩いて、次の文字は1分20秒で書き終わり。10秒かけて戻ってきて、一礼したあと曲終わりと同時に終わってください」のような依頼もありました。それに応えるためには、文字を書くだけではなくて曲を聴き込んで耳でも覚えなければいけないし、体で覚えて秒数が合うようにする必要もある。そのためのトレーニングをしたりしています。
たくさん書くということは基本にあります。一枚目は最も素直に書けるんですよ。だいたい、一枚目がいい。そこから、2枚、3枚、100枚、200枚と続けていくと、手は慣れるけど頭は固くなっていく。技術と表現力をどうミックスすれば、いいものが生まれるか? という試行錯誤をしながら、ときには300枚、400枚と書いていくこともあります。そこから何枚か選んだあとは、お客様の立場に立ったときに、いちばん「美扇らしい」ものはどれかな、という視点で選んだりもします。母と一緒に選ぶことが多いです。母がけっこう「これがいい」とか「これがダメ」とか言ってくれるので、ありがたいなと思っています。ちょっとムカつくときもあるんですけどね(笑)。「母上は書いてへんやろ!」って怒ったりするんですけど(笑)。でも、自分でも「うーん」と感じているポイントを突かれたりするので、さすがやな、と思っています。
たまに、あります。いい字が書けたときとか。あとは、お客様に作品を届けたときに「すごいよかった」「感動した」って言ってもらえると、めっちゃ嬉しいですね。小さな頃から、褒められて嬉しいのは変わらんなと思います。やっぱり書道大好きなんです。書道野郎なんですよ、基本。