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MAGAZINE
STYLE OF MASHIRO

ホテルプロデューサー龍崎 翔子
SHOKO RYUZAKI
PART.1

ホテルの持つ意味を再定義し、今までにない空間を生み出し続けている気鋭のホテルプロデューサー、龍崎翔子。「あたりまえ」を疑い、新たな価値を創造してきた彼女は、今何を考えているのか。生きざまについて聞いてみました。

自分が欲しいものを作ってるだけなんですよ。
世の中にはまだないけれども自分が欲しい、
というものが見えているタイプです。

HOTEL SHE, KYOTOは、どんなことを意識して作ったのですか。

ここを作るときにイメージしていたのは、辺境のハイウェイ沿いのモーテルです。
東九条という街の歴史を考えると、この場所で「いかにも京都らしい空間」を作るのは、土地に対してかえって失礼だと思った。だから、京都中心部と南側のエリアとの関係性を独自解釈して、そこにThe Eaglesの歌「Hotel California」を重ね合わせました。訪れた人が「あれ、これは夢かな?」と思ってしまうような、居心地の良い悪夢のイメージを作りたかった。

私がホテルのプロデュースを始めたきっかけは、どの街にも同じようなホテルがあることに対して感じた不満でした。10年前だったら、駅の近くで1万円から2万円の価格帯で泊まれる宿といえばビジネルホテルしかなかった。でも、初めて行く土地で、日本中どこでも同じような様式のビジネスホテルに泊まることに違和感を覚えたんです。

ホテルは、その地域を象徴する存在、プレゼンテーションする存在としてあるべきだと思いました。自分たちがその土地について調べたことを基に、「地域性や空気感をこういうふうに解釈してみました」というものを出す。やるからには、この街の流れが作られる拠点みたいなものになれたら。そういう気持ちで、尖りきった宿づくりをしています。

龍崎さんの気質とは?

ビジネルホテルに泊まった時に違和感を覚えたことが、自分の気質を表していると思います。「なんでビジネスホテルなんだろう」と思った。そこには、新しい価値を生み出すための、建設的な批判のスタンスがある。
既存のもので満足しない気質ですね。世の中にはまだないけれど自分が欲しい、というものが見えているタイプです。
昔からそうでした。

中学生の頃に体育祭の旗を作る機会があって。3つのクラスが赤・白・青に分かれてそれぞれの旗を振るんです。赤だったらフェニックス、白だったらホワイトタイガー、青だったら龍、みたいな。
私のいたクラスは青組だったのですが、青の旗は毎年、龍なんですよ。それで、「なんで毎年龍なんだろう?」と。いわゆる「かっこいい」モチーフで、ファンタジックなものが選ばれがちだったんです。そうではない選択がないかなって考えました。それで、孔雀を提案したんです。本当に青くて、実在するし。力強くて気品もある。結果、私たちのクラスは孔雀の旗を振りました。めっちゃ評判が良かったです、自分でも本当に感激するぐらい上手くできたんですけど。そういう、普通に考えたら「龍でもいいじゃん」となるところを「違うな」と思って新しいものを作る。それが自分の気質だと思います。

MASHIROの考え方と近いものがありますね。MASHIROも、チューブタイプの歯磨き粉が当たり前になっている流れの中でルーツを見直し、粉という新しい選択肢を作った。

そうですよね、粉って新しいなと思いました。でも、口の中が粉まみれになったらどうしよう、と不安もあって。使ってみたら、意外とちょうどいい、ちゃんと磨ける。パッケージもめっちゃ可愛い。

既存のものに満足しない生き方は、大変では?

大変だと思ったことはなくて、楽しみながらやっています。
与えられたものがあったときに「これじゃなくて、こうでもいいな」と思う。その考えていくプロセスの方が圧倒的に楽しい。
孔雀の旗の例で言うと、「なんで龍なんだろう」と考える、それで「孔雀はどうだろう」と思いつく。その時点でもう、脳汁がめっちゃ出てる。アドレナリンが出て気持ちいいんです。それを実際にデッサンして「めっちゃいいやん」となって、また脳汁が出る。その後コンペで勝ってさらに嬉しい。それから、みんなで協力して描いていくのも楽しいし、実際にみんながその旗を振ってくれるのも嬉しい。それを先生に褒められて、また嬉しい。楽しいことづくめです。

私は、自分はクリエイターやアーティストではなく、マーケタータイプだと思っていて。自分が欲しいものを作っているだけなんですよ。「こういう旗を振りたいな」とか「こういうホテルに泊まりたいな」と思ったものを作ったというだけで、自己表現として何かを作ったりはしていない。私は、自己表現として「選択」をしたいんです。でも、選ぶときに自分らしい選択肢がない。だから、自分でその選択肢を作ってあげている。

それを作るのは自分じゃなくてもいい。でも、自分でもそこそこ作れるから、他の人が作ると悔しいです。「うわー、やられた!」って思う。
とはいえ、そもそもは自分が消費者としてハッピーであるためにものを作っているわけで。だから、「似たようなホテルができてきたな」ということがあっても、そこに対してはあまり目くじらを立てないです。私がこういうホテルをひとつ作ったら、それがきっかけのひとつとなって他が増えていく。周りの人がどんどん、また素敵なホテルを作っていく。そうなった方が、自分が旅行する時もハッピーじゃないですか。
私は、人格というのは「何を選択するか」で形成されると思っていて。だから、欲しいものが一つもないときに無理やりに何かを選ぶのは、苦痛だし、お金ももったいないし、人生ももったいないと思うんです。選択肢があることで、自分がそれを好きなことを発見できたり、それを選ぶことが意思表示になって、その人の人格が掘り出されていく。そんな、選びがいのある選択肢を作っていきたいです。

PROFILE

ホテルプロデューサー龍崎 翔子 Shoko Ryuzaki

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー。
1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトとし、2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。2020年はホテル予約システムのための新会社CHILLNN, Inc.を本格始動。また、同年9月に一般社団法人Intellectual Inovationsと共同で、次世代観光人材育成のためのtourism academy "SOMEWHERE"を設立し、 2021年2月よりオンライン専用の講義を開始。